ベートーヴェン ピアノソナタ第29番作品106 「ハンマークラヴィーア」 

月に一度のCDレヴューですが、今回ほど辛い思いをしたことはありませんでした。猛暑の中、何日もかけてベートーヴェン畢竟の大作「ハンマークラヴィーア」を聴き比べることになろうとは…。ピアノソナタでありながら四楽章あり、普通に演奏しても四十分は優にかかるほど規模が大きく、また内容的にも非常に重いので、単に聞き流すだけでも精神的に相当疲れてしまいます。
ベートーヴェンのピアノソナタは、有名な「悲愴」「月光」「熱情」のように分かりやすいものも多いのですが、このハンマークラヴィーアだけは何度聴いてもとりとめがないといった印象が拭えませんでした。長大なアダージョの後を受けるフィナーレは何とフーガ!技術的に難度が高いのは当然ですが、個別の楽章ごとに加え、全曲の構成をしっかり把握するのが大変困難になっているのです。
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まずは定番中の定番、バックハウスの1952年の録音です。実はステレオで再録音する予定だったのですが、バックハウスが途中で死んでしまったので、ステレオの全集のハンマークラヴィーアにはこのモノラル録音が入れられています。正直、これから聴き始めたのは間違いでしたね。何度聴いても良さが全然分かりませんでした。
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バックハウスと並び称されるベートーヴェン弾きだった、ゼルキンの録音はステレオなのでずっと聴きやすくなっています。全体としては良い演奏だと思うのですが、時々トリルの部分で旋律が良く聞こえない部分があって、今一つ音楽にのめり込めませんでした。
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旧ソ連のピアニスト、ヴェデルニコフの録音もありました。両親がスパイ容疑をかけられて父親が処刑、母はシベリア送りとなり、自らも監視されながら演奏活動を行っていた悲劇のピアニストです。状態の良くないピアノをあてがわれたせいもあるのか、音が今一つ冴えません。やや早めのテンポで端正な演奏ではありますが…。
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今まで一番良く聴いているのが、ポミエの録音です。彼はフランス人なのに、なぜベートーヴェン?と思ったのですが、彼の師匠がイーヴ・ナットということで納得しました。ナットはフランス人で最初にベートーヴェンのピアノソナタ全集を完成させた人だったからです。全体的な構成がしっかりしているだけでなく、細部まで全く手を抜いていません。ハンマークラヴィーアはこの両方が揃っていないと凡演になってしまう恐れがあるのですが、ポミエは実に多彩な音色を持って聴かせてくれます。その分、やや軽めな印象があるので、これが好き嫌いを分けるかもしれません。
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ハンス・リヒター=ハーザーは最近買った物です。バックハウスはよく「ドイツ正統派のピアニスト」と云われますが、実際聴いてみると意外にもSachlichkeitなのです。むしろドイツの伝統を守っているのはリヒター=ハーザーの方ではないか?と思えるのです。この演奏は完全に曲を手中に収めている、いわゆる自家薬籠中といった感じでしょうか。ちょっと重い感じですが。
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最後にまたバックハウスです。これはデッカに録音した七年後、ドイツのボンでの演奏会を記録したものです。あまり期待していなかったのですが、これはスタジオ論音よりも断然良い演奏でした。特にアダージョを最初から最後までしっかり聴き通すことが出来たのはこの盤だけでした。

元々私なんかの手に余る曲ではありますが、改めて聴く度に新たな発見があるので、しばらくしたらまた聴き比べることになるでしょうね。まだまだ聴いていない演奏家も多いことですし。
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コメント

No title

おはようございます

クラシック音楽こそハイレゾで聴きたいものですね
ポピュラー音楽はそこまで繊細ではありませんからね。

ピアニッシモからフォルテ・フォルティッシモまで
レベルの差が非常に大きいですからね。

ここだけの話、クラシック音楽を聴くと眠くなってしまいます。
(職場では言えません)

No title

くるたんパパさんおはようございます。
ハイレゾですか?正直ハイレゾを入れるぐらいなら、アナログにお金をかけた方が良さそうな気がするのですが…。というのも、私が好む音源はモノラル録音が多いので、あまりハイレゾとは相性が良くないのでは?と思うからです。
最近、LPレコードがまた復活しているようですが、CDよりもLPの方が情報量は多いなんて云いますね。専門家ではないのでよく分からないのですが、一理あると思っています。
私もシューベルトの「グレイト」を聴くと、いつも眠くなります(笑)。

No title

「悲愴」「月光」「熱情」 は 知ってても

「ハンマークラヴィーア」ってのは
存じません。。。

そっか 今日図書館行くから
借りてこよう!!
っとo(^-^)o

No title

└|∵|┐高忠┌|∵|┘さんこんにちは。
ハンマークラヴィーアというのは早い話が、ドイツ語でピアノの事を指します。ベートーヴェンのピアノソナタは、第28番以降の作品にハンマークラヴィーアのための大ソナタ(Große Sonate für das Hammerklavier)と記載される筈が、この29番だけがそう呼ばれるようになったとか。
図書館には置いてない場合が多いような気がします。どうしてもポピュラーな曲だけを扱うことが多いですから。もし全集が借りられるようなら、それを借りれば良いと思いますが。

まったく

わかりませんが
なかなか
ゆっくりクラシックを楽しむ機会がないですね

i-phoneで たまにjazzは聴きますけどね (=^・^=)

No title

私たちが普段聞いてる音楽は
オリジナルが一番良くて
他のアーティストが演奏すると
カヴァーと言われる
歌が下手でも演奏が下手でも
オリジナルが一番
でのクラシックに世界は
オリジナルではなくて
多くのアーティストが演奏をして
評価されるという不思議な世界観
それがクラシックの魅力なのでしょう。
奥が深すぎる。

No title

おはようございます。
せいパパさんのコメを読んで
クラシックの不思議な世界観に
なるほどぉとあらためて思いました。

No title

維真尽(^^♪さんおはようございます。
ちょっと今回の物はマニアックに過ぎましたね(笑)。
ベートーヴェンがこのハンマークラヴィーアを作曲した時、これを演奏するのは不可能だと云われたのに対して「五十年もすれば誰かが演奏するだろう」といったそうです。実際には二十年ほどしてからクララ・シューマン(シューマンの奥さんです)やリストがレパートリーとして採り上げるようになったとか。音楽の進歩というのはベートーヴェンが想像する以上の速さだったようです。

No title

せいパパさんおはようございます。
その昔、音楽家というのは貴族に仕える使用人でしかありませんでした。そうではなく、音楽だけで身を立てようとしたのがモーツァルトであり、ベートーヴェンでした。彼らの収入源は、貴族などから依頼を受けて作曲をしたり、演奏会を行うことでした。それ以外にも楽譜を出版することがありました。昔は今と違って、著作権に対する考え方がきちんとしていなかったこともありますね。楽譜が売れれば売れるほど、その曲が各地で演奏されて、より多くの人に知られるようになっていったわけです。音楽家が死んだ後もそうだったのです。
クラシックの愉しみ方としては、既に決められた楽譜という中で、演奏家はどのように表現をするのかにあるといえます。ですから作曲家を介して、如何に自己表現をするかということが大事だといえるのです。

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casa blancaさんおはようございます。
これはクラシック音楽に限ったことではなく、日本の伝統芸能である、能や狂言、さらには歌舞伎もそうではありませんか?新作もあるにはあるのでしょうが、未だに江戸時代に作られた仮名手本忠臣蔵等、古典的な演目が非常に多く演じられ、昔からの熱心なファンは「今の○○屋は先代と比べてまだまだ」なんて言ってますから。とすると伝統的な形を踏まえた上で、役者が如何に自己表現をするかを観客が愉しむ芸能だとお分かりになる筈です。
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